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千鳥の世界

母:古代子のこと その一:生家

千鳥の母親・田中古代子のことを少し詳しく書いてみようと思います。

ウィキぺディアで検索すると古代子のページがあります。一通りのことは書かれています。そこで今日は、ウィキには書かれていないことを幾つか挙げてみます。編集工房 炬火舎【鳥取県】の中山昇治さんは、田中古代子に逸早く注目し未発表詩編を発見、1992年には田中古代子詩集『暗流』を出版されました。千葉県八千代市の詩人星清彦さんは、月刊文芸誌 かぶらはん(鏑半)【群馬県】などに古代子と千鳥母娘の評論を連載しています。中山さんや星さん、さらに鳥取女流ペンクラブの内田照子さんら、先行する記述・評伝の労作を参考に、浮かぶ幾つかの謎や疑問、おぼろげながらの推論を書いてみます。お付き合い願います。(古代子や千鳥が生きた大正という時代がどんな社会だったのか、どんな暮らしぶりだったのかを知ることで、彼女たち母娘についての理解が少しでも深まれば有り難いことです。)

古代子の父石蔵は、山陰線浜村駅の駅前で「菊乃家」という屋号の運送業を営んでいました。当時、鉄道貨物輸送は、物流の最先端・主流でした。先見の明があったのでしょう、1900年(明治33年)には日本通運公認運送店の許可を取り、従業員も10人ほど雇い入れ、羽振りの良い暮らし向きだったようです。母クニも、生家はお金持ちで、兄は県会議員でした。

コヨは、裕福な家のひとり娘として大切に育てられたようです。下に弟が二人いました。暢と卓。ただ、コヨ自身は幼少の頃から病弱で小学校も休みがち、鳥取技芸女学校入学後も気管支炎療養のため中途退学したようです。その後、東京の実践女学校の通信教育で英語や国文を学びます。家事裁縫などの「家政」より、文学や語学「文芸」に関心が向いていた少女でした。それにしても、大正時代の初め頃、既に「通信教育」があったことには驚きます。古代子は、愛読していた文芸雑誌「女子文壇」や「女学世界」を通じてそのことを知ったのでしょう。以降、文芸誌や地元の新聞などに旺盛な投稿を始めます。この頃、実家は海産物問屋も開業。家業は順調だったようです。上述の鳥取女流ペンクラブ内田照子さんは「父石蔵は、当時珍しかった活動写真を浜村で無料上映するなど、文化や進歩的な思想にも理解を示す人物だった」と書いています(富士書店「尾崎翠田中古代子岡田美子選集」1998年8月20日発行)

1914年(大正3年)地元紙『因伯時報』投稿欄に安治博道の「へちまの花」という女性蔑視の文章が載ります。憤ったコヨは「孤夜子」という筆名で「不具と云われた女より」を書き、反駁します。17歳でした。それがきっかけで二人の文通が始まります。安治は小学校の教員で投稿マニア、周囲の評判は芳しくなかったみたいです。安治への悪い噂から、コヨは一時大阪の親戚に預けられたりしますが、交際は続いた模様です。18歳の秋、コヨは山陰日日新聞社に入社、米子に下宿します。そして11月には結婚します。反撥し合っていた二人が、どこでどうなって結婚に至ったのかは不明です。世間知らずのおぼこが、言葉巧みな安治に騙されたのでないかと勘繰ってみたくもなりますが、男女の仲は摩訶不思議というしかありません。ただ、この結婚は不幸なものでした。千鳥を産んだ1917年20歳の頃には、「夫との人生観や文学観の違いから」米子を離れ実家の浜村に帰ります。以降、離婚請求、姦通罪告訴、問屋横領罪で逆告訴、終結和解という泥沼を経て、浜村の実家で、クニとともに千鳥を育てながら、旺盛な執筆活動に入っていきます。(続く)

附記:

【2002年9月 気高町教育委員会発行の冊子「すいーとぴー」文学をめぐる旅 】には、田中古代子のことを「持って生まれた美貌に、当時流行の断髪姿でたばこをふかし、モダンガールとして周囲の注目を集めました。‥‥ 近所の人たちは、進歩的な女性・古代子に距離をおき、彼女が村を歩いていると「はいからさんが通るぞ!」といって一歩離れたところから見ていたようです」と紹介しています。一方、古代子の未発表原稿を発掘し、1992年詩集『暗流』を出版した中山昇治さんは、そのあとがきにこう記しています。「(鳥取県下初の女性新聞記者となった事実から)後になって彼女のことを、「新しき女の代表的存在として文学青年達の崇拝の的であった」と美談で粉飾するが、はたしてそうだっただろうか。彼女自身は自分の考えに、素直に、生きたように思う。」古代子が自らどう思っていたのか、周りからどう見られていたのか、今となっては、本当のことは分かりません。ただ、「物事に真正面から向き合う直情の人だったのだろうな」そう思うばかりです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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