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千鳥の世界

大正という時代②ペンと紙

大正時代は「ペンと紙が普及して、書く機会が増えて、私小説の作家になれる時代が到来した」と書いたのは松林要樹さんです。(『21世紀を生きのびるためのドキュメンタリー映画カタログ』2016.3.25 キネマ旬報社)大正時代を語る二つ目のキイワードは、ペンと紙書くことが普通になってきた時代のはじまりです。

今では誰もが知っていて当たり前のように使っているシャープペンシルが出来たのも大正時代のことでした。1915年(T4)「早川式繰出鉛筆」。チドリが生まれる2年前のことです。明治から大正にかけ、機械による洋紙の大量生産が始まります。手作りの和紙に代わって、洋紙が広く出回り、暮らしの中の紙事情が変わりました。400字詰め原稿用紙や、学習ノートが普及したのもこの頃でした。

大正時代に作られていた学習ノート

さらにその背景には、大正初期に提唱された「生活綴り方」がありました。それまで限られた人々だけのものだった「文章や文字を書くこと」が、人々の暮らし、様々な層に拡がって行きました。鈴木三重吉は、児童誌「赤い鳥」にこう書いています。「文章はあつたこと感じたことを、普段使ってゐるままのあたりまへの言葉を使って、ありのままに書くやうにならなければ、少くとも、さういふ文章を一ばんよい文章として褒めるやうにならなければ間違いです。」鉛筆とともにクレヨンやクレパスなども登場していきました。生活全般の洋風化がすすみ、ファッション・食文化も変わります。森永ミルクチョコレートやカルピスの発売、明治屋がコカ・コーラを初めて輸入販売したのもこの頃です。ちなみに、チドリが亡くなった1924年(T11)師走には、東京銀座の松屋デパートで土足での入場が始まりました。―和食・和服から洋食・洋服へ―

大袈裟に過ぎると嗤われそうですが、大正時代とは、室町時代から続いてきた武士と農民・百姓による伝統的日本文化・生活様式が、明治維新を経て洋風化して現代に連なる「転換期」だったと言えそうです。これを、山室信一や鷲田清一らは「歴史の踊り場」と呼んでいます。(参考:『大正=歴史の踊り場とは何か 現代の起点を探る』講談社選書メチエ)

チドリは、近代から現代に至る時代の突端・スタート地点に生まれた「第一世代」だった ―― そう思うと何やらゆかしい思いに駆られます。

kobeyama田中千鳥第一使徒

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