千鳥は知覚・観察力に優れた少女でした。月や星 雲の変化に感応し、小さな生き物への関心もこまやかです。眼と耳をじっと澄ませて、受け取ったものを言葉に書きました。とりわけ耳の良さには驚かされます。彼女の短い言葉の中から、いろんな音が響いてきます。カエルの鳴き声や虫の声、風の音、そして忘れられない波音‥繰り返す波のリズムがいつまでも耳に残ります。さらには、感じたことをそのまま言葉に移すのではなく、身体の奥深くにあるどこか特別な場所で一度ろ過されたうえで、静かに浮かび上がってきたような印象を受けます。
母・古代子が書いた編纂後記にはこんなエピソードが綴られています。第六官というものが解らないので問い返した祖母にこたえた千鳥の言葉。「彼女は大得意になつて、人間には五官しかないこと、動物には第六官があつて、何でも豫感することなどを、いつの間に小耳にはさんだものか、細々と説明して祖母を驚かした。」
彼女もまた、第六官を宿していたのでしょう。声という通路 音という媒体を通して、周りの自然や生物たちと自在に交感していたようです。