累計50万部を超えて大正時代の三大ベストセラー小説の一つに数えられる島田清次郎の『地上』は「第一部 地に潜む者もの」「第二部 地に叛くもの」「第三部 静かなる暴風」「第四部 燃ゆる大地」の四部からなる長編青春小説です。初版の新潮社から出版社を変えながら幾度も版を重ねてきたが、今ではほとんどが入手不可能になっています。もっとも「第一部 地に潜む者もの」だけは、ネット上の「青空文庫」で読むことができます。ご興味の向きはお眼通し下さい。⇒ 『地上 第一部 地に潜むもの』
島田清次郎については、ウイキペディアにも記載があります。⇒ 島田清次郎ウイキ頁 コチラも参考に。
小説『地上』については、これ以上立ち入りません。ただ、先回も書いた精神科医で書評家の風野春樹さんの著作『島田清次郎 誰にも愛されなかった男』序章では「そろそろ、「天才と狂人」という言葉の呪縛から、清次郎を解放してあげてもいいいのではないだろうか」と執筆の動機を語り、終章とあとがきでは、「現在使われているような抗精神病薬がまだないこの時代、統合失調症の治療は鎮静や持続浴など、ほぼ対処療法のみである。」と記し、精神科医の立場から「当時も、統合失調症が自然に回復する例は決して少なくはなかった」とし「清次郎は、確かに一時は「狂人」と呼ばれても仕方がない状態にあった。しかし、清次郎は決して狂死しkたわけではなかったのである」としています。
天才・時代の寵児ともてはやされ一世風靡、脚光を浴びながら一転「狂人」のレッテルを貼られて貶められた島清と、同時代同じ日本海の浜辺に生まれ、この世に少しの詩文を残して世に知らねぬままひっそりと身を閉じた田中千鳥。良い悪いでは測れません。甲乙をつけるのも間違いでしょう。どちらも同じ人生です。ただ、文学の世界に限らず、忘れられ知られることなく埋もれた「材」少なくないことは憶えておいてほしいと願います。ともすれば、知ってる人・有名な人にだけ関心が集まり、スポットライトが当たるばかりで、その周りの闇が目に入らない風潮は貧しく寂しいものです。