千鳥の詩は、どれも分かり易いことばで書かれています。そこには曇りも濁りもありません。景色がくっきりはっきり立ち上がってきます。なのに、どこかはかなげです。いつも寂しげです。目の前の光景を描きながら、あらぬかたを見ているような「ぼんやり感」を感じます。心ここにあらず、というか、気が遠くなる、というか‥。
「恍惚」という言葉があります。辞書を引くと、「物事に心を奪われてうっとりする状態」とあります。「恍」という文字は光と心、「惚」は、心の無をあらわします。「恍惚」とは光の中で心を失うことであり、自分をとりまくものに身をまかせ、心をゆだねることです。よりどころなく恍惚のままに、恍惚ゆえに、見る‥‥千鳥の詩にはそんな「恍惚」を感じます。我を忘れ、身のまわりに自分が溶け出していくはかなさ、はかなさ故の不安、不安から生まれる官能、‥。千鳥の詩の魅力は、ここにもあります。