もう一つ、『千鳥遺稿』を読んだ小説家Hさんのコトバ評を。Hさんは60代、小説も書けば、詩や評論、書評も手掛ける文筆の専門家です。
「難しことばなんてどこにも一つもないのに、どこか心ここにあらずというか、ぼんやりとしたところが残る不思議な読後感を持ちました。読めば素直にわかるんですが、わかったと思った瞬間にまたすうっとわからなくなる、説明してくれているコトバがまた別の世界に連れ出されていくように感じるのです。意図しているわけでは無いのでしょうが、そういう独特の文体というかリズムを持っているのが、彼女のコトバの魅力です。目に見えるものを描きながら、目に見えないものに触れている、というか。まっさらな気持ちで対象に向かう清冽に打たれながら、恐ろしく醒めた気配も漂う‥そんな「一筋縄ではいかない」稀有な書き方が出来る人だったのでしょう。もっともっと世に知られてよい「書き手」です。」