山陰 日本海間近の浜辺の村に生きた千鳥は、終生 波の音とともに過ごしました。
「ナミ」
ビヨウキノアサ / ハヤク メガサメテミレバ / ナミノオトガ / シヅカニシヅカニ / キコエテクル(七歳)十月
「なみのおと」
うらの畠に / 出て見ると / つめたい風が / ふいてゐて / はまの方から / なみのおと (八歳)二月
目の良い千鳥は、また耳の良い少女でもありました。どの詩にも、ナミノオトが悠久の時を刻んで読む人の耳に届きます。
《谷川詩集》の「語る人」の最終連にはこうあります。(部分)
文字よりも声が正直 / 目よりも耳が敏感 / 語る人は内心そう思っている
もうひとつ 同詩集「過去へ」のこんな一節。(部分)
体の私がいつしか / 言葉の私となって / 目は無限を見ようとし / 耳は永遠を聴こうとする
目と耳、身体と精神性‥‥たくまずして、時空を超え、二人の詩人の魂は、共鳴し続けます。