都会の空と違い、千鳥が暮らす浜の里の空は広く高いものでした。「雲を見ている」七歳の千鳥。
「シロイクモ(雲)」
シタカラミテモ / アンナニ ハシル / ウエカラミタラ / ドンナニハヤイダラウ / アオイソラニ / シロイクモ (七歳)七月九日
「クモ」
キレイナクモヲ / カカウト / エンピツダシテ / デテミタガ / クモハ カタチヲ / カヘテヰタ(七歳)十一月
九十歳の俊太郎もまた‥‥
「雲を見ている」
雲を見ている / 赤ん坊のころは / 何も知らずに雲を見ていた / あの白くふわふわしているのは雲だよと / 誰が教えてくれたのか
昔から雲を見ていた / のべつ見ていたわけではない / 気がつくと雲に眼が行っている / 青空を舞台に / 雲のパントマイムは終わらない
雲を見ていると / 雲を見ている気持ちに気づく / 他の気持ちがみんな消え去って / ただ雲だけがある気持ち / それを誰かに伝える術がない
夕焼けになる前の暮れてゆく空に / 輝きを秘めながら雲が散らばっている / 理由もなく胸が締めつけられて / まだ生まれていなかった / 遠い昔を思い出す
今日も雲を見ている
この谷川詩、まるで千鳥が内心の呟きを語っているようで‥‥不思議です。