千鳥の生原稿は失われて残っていません。もとより大正時代、寒村に生きた無名の少女の手すさび、当たり前のことです。ただ、一本の鉛筆から生まれた文字のひとつひとつが、母によって編まれ、百年を超えて私たちに届きました。千鳥が書かなかったら‥、母古代子が本に編まなかったら‥、地元気高町で復刻版が作られなかったら‥、復刻版が廃れ、有志達により再復刻版・再々復刻版が作られなかったなら‥、それが遠く離れた読者たちの目に触れなかったら‥幾つもの偶然が重なり、気の遠くなる時間を経て、それは今も私たちの目の前に置かれています。この事実は消えません。出会ってしまったものの責務として(といえば大げさに過ぎましょうが)、この軌跡(奇跡)を伝えて行きたいと思います。一本の鉛筆から生まれた小さな言葉たちが、時空を超えて世界に拡がっていくことを信じます。いつか、きっと‥‥‥。
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