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千鳥の世界

詩は万人の私有

詩は万人の私有」というフレーズは最近知りました。田村隆一さんの第二詩集『言葉のない世界』【1962 昭森社 刊】の中にあります。いい言葉だなぁと毎日転がしています。詩人が東京郊外の遊園地を訪れ、よほど激越したのでしょうか、一篇の詩を書きます。「西武園所感 ある日ぼくは多摩湖の遊園地に行った

君がもし
詩を書きたいなら ペンキ塗りの西武園をたたきつぶしてから書きたまえ
詩で 家を建てようと思うな 子供に玩具を買ってやろうと思うな 血統書づきのライカ犬を飼おうと思うな 諸国の人心にやすらぎをあたえようと思うな 詩で人間造りができると思うな
詩で 独占と戦おうと思うな
詩が防衛の手段であると思うな
詩が攻撃の武器であると思うな
なぜなら
詩は万人の私有
詩は万人の血と汗のもの 個人の血のリズム
万人が個人の労働で実現しようとしているもの
詩は十月の午後
詩は一本の草 一つの石
詩は家
詩は子供の玩具
詩は 表現を変えるなら 人間の魂 名づけがたい物質 必敗の歴史なのだ
いかなる条件
いかなる時と場合といえども
詩は手段とはならぬ
君 間違えるな   【一連 省略 二連を全文引用 太字強調は原文のまま】

詩は「何ものでもなく、同時に何ものでもあり」さらに、「万人が(それぞれに)私有するもの」なのだとする主張はやわではありません。その憤怒は揺るぎないものです。

第一詩集『四千の日と夜』で注目・評価されたこの詩人は、1923年生まれですから、田中千鳥の五つ年下、当時は30代後半、脂の乗った仕事を重ねていた時期です。(全10篇、わずか48ページのこの薄い第二詩集『言葉のない世界』は翌年 第六回高村光太郎賞を受賞します。)

歴史に「たられば」は禁物ですが、もし千鳥が生き永らえていたとしたら40代の仕事盛り、どんな感想を持ったことでしょうか。

今日は、ちょっぴり感傷的な気分です。

kobeyama田中千鳥第一使徒

投稿者プロフィール

田中千鳥第一使徒

『生きていくうえで、かけがえのないこと』

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