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千鳥の世界

島清のこと

田中千鳥が生きた大正時代に島田清次郎という小説家がいました。石川県に生まれ、19歳の時に書きはじめた小説『地上 地に潜むもの』が菊池寛や堺利彦等に絶賛され、累計50万部を超える大ベストセラーになりましたが、その後 精神を病み、疎まれ、今は全く「忘れられた」小説家です。(教えてくれたのは、私の中学時代の友人です。半世紀以上前のことでした。当時 芥川龍之介に傾倒していた早熟な文学青年だった彼が「凄い作家がいる」と興奮して薦めてくれました。早速読んで以来すっと気に懸けて現在に至ります。)

「大正デモクラシー」という自由主義的な社会風潮、若い世代向けの小説が少なかったという時代背景などから、若者たちに圧倒的な支持を受けて、一躍時代の寵児となりますが、その後 内縁の妻へのDVや海軍少将の娘の誘拐監禁というスキャンダルを起こしたりと、奇矯なふるまいを重ね、早発性痴呆(今でいう統合失調症)と診断され精神病院に入院、1930年(昭和5年)肺結核で亡くなります。31歳でした。

『地上 第一部 地に潜むもの』初版3千部は即日完売、重版に次ぐ重版で累計50万部を超え人気作家になりますが、後半生は、傲岸不遜な言動で文壇からも孤立して「狂人」の烙印を押され、死に至ります。毀誉褒貶 相半ばするなか、同年生まれの川端康成は「新しい時代の常識となり得る程の広い人生観を含んだ作品こそ、世界が求めてゐる文藝だ。」(1925年 雑誌『文藝時代』文壇波動調)と肯定的に評価しました。

死後も、評伝小説『天才と狂人の間』(杉森久英)、漫画『栄光なき天才たち』(森田信吾)映画『地上』(大映 新藤兼人脚本 吉村公三郎監督)テレビドラマ『みつめいたり』(フジテレビ 山内久脚本 森川時久演出)テレビドラマ『涙たたえて微笑せよー明治の息子・島田清次郎』 (NHK 早坂暁脚本 久世光彦演出)などと間歇的に浮上してきましたが、令和となった今では全く「忘れられた」存在です。日本の近代文学の歴史にもほとんど登場しません。生地である石川県美川町(現白山市)では1994年から2011年まで「島清恋愛文学賞」が設けられましたが、財政難から、主催は民間団体「日本恋愛文学振興会」に移り、さらに2019年度からは金沢学院大学が受け継いでいます。「天才」ともてはやされ一世を風靡、「全国区」となりながら、一転「狂人」のレッテルを貼られて、歴史の中に埋もれた島清についてもう少し考えて行きます。[この稿は、精神科医で書評家風野春樹さんの労作『島田清次郎 誰にも愛されなかった男』【2013年8月本の雑誌社 刊】から多大な示唆を受けています。]( 次回に続く )

kobeyama田中千鳥第一使徒

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田中千鳥第一使徒

一筆啓上⑦(伏流水)

島清のこと 続

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