現代詩作家・荒川洋治さんは、これまで幾つかの詩集と沢山のエッセイ集を出版してきました。最近、28年間に書いたエッセイから86編を選び『文学は実学である』を出版しました。【2020年10月 みすず書房 刊】
表題のエッセイはこう書きだされています。「この世をふかく、ゆたかに生きたい。そんな望みをもつ人になりかわって、才覚に恵まれた人が鮮やかな文や鋭いことばを駆使して、ほんとうの現実を開示して見せる。それが文学のはたらきである。」べつに難しいことが書かれているわけではありません。むしろだれもが納得するごくごく当たり前のことしか書かれていません。けどこのストライクゾーンまっしぐらの直球、有無を言わさぬ「剛直球」です。荒川さんは続けます。「この目に見える現実だけが現実であると思う人たちがふえ、文学は、肩身が狭い。」「(だが 文学を)知ることと、知らないことでは人生がまるっきりちがったものになる。それくらいの激しい力が文学にはある。読む人の現実を、生活を一変させるのだ。文学は現実的なもの、強力な「実」の世界なのだ。」文学が世の人の役に立つものであるという荒川さんの主張は揺るぎません。こんな言葉もありました。「目にとどきにくいもの、あわいにあるもの、消えかけたもの、でも人間の生活や精神の組成に大切なものを見落とすことのない意識をつくりあげる。それが詩歌なのだろう。詩や歌をひとつ知るごとに、見方や生き方もゆたかになるような気がする。」【「詩歌の全景」2020年2月9日毎日新聞 初出】
千鳥もまた、「目に前に拡がりながら、目にとどきにくいもの、あわいにあるもの、消えかけたもの」を言葉に刻んだ「実学文学者」のひとりです。